PC-FM ネットを利用した

プライマリケア・家庭医療の

見学実習報告

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実習先

3222324日 亀井内科・呼吸器科(亀井三博先生)

 

2001426

慶應義塾大学医学部5


亀井内科・呼吸器科での実習

 亀井内科は名古屋市の栄に、専門医が集まってグループ診療を行っているSL医療グループに参加している。このグループには約30名の開業医が参加し、名古屋市の中心地にあるビルの各部屋で診療所を開設している。ほとんどが内科で他には耳鼻科、外科、産婦人科、神経内科などがある。2階には薬局が3軒ならび、4階には検査室がある。ここではX線やヘリカルCT、超音波検査が行える。

 亀井内科はビル内での診療のほかに、在宅医療も行っている。

 

(1)日程

@     322日(木)

830900 準備

900130 (午前)診療の見学

130200 訪問看護婦さんとのお話

       昼食

   〜630 往診(入院1人、在宅2人)

 

A     323日(金)

830900 準備

900100 (午前)診療の見学

100200 昼食、休憩

200400すぎ (午後)診療の見学、CPAP療法の機器の患者さんへの説明の見学

445700 往診(在宅2人)

 

B     324日(土)

830900 準備

900118 (午前)診療の見学

        昼食

330530 往診(在宅1人)

        夕食

 

(2)実習内容

@診療の見学

亀井内科には亀井先生のほかに受付の方、看護婦さん数人が常時働いており、受付を済ませた患者さんはまず亀井先生の診察を受け、その後必要であれば看護婦さんが採血を行ったり、吸入ステロイドなどの使用方法の指導を行ったりするというのが基本的な流れとなっている。

呼吸器科ということで、肺気腫、COPD、喘息、風邪の後の咳の人が多かった。また睡眠時無呼吸の人も多かった。他には頚部リンパ節腫脹、花粉症、結核後遺症、肺線維症の人もいた。診察室ではSaO2と脈拍の測定器、ピークフロー、フローボリューム曲線の検査が行える。診察室の外にも、血液ガス分析の器械、酸素濃縮機などがあった。

診察室では先生の診療を見学し、ときどき胸の雑音を聞かせていただいた。

私は呼吸器科というと風邪が多いかなと想像していたのだが、実際には上記3つの人が多かったのには驚いた。これらの病気は慢性疾患で自己管理と定期的な受診が必要なので、オフィス街にある亀井内科を訪れるのであろう。患者さんの年齢層としては、オフィス街にあるのだが、高齢者が比較的多かった。また栄にあるので、家族連れでショッピングや食事を楽しみつつ受診するという家族も多いそうである。栄に行くということでおしゃれをしている人がほとんどだったのが印象深かった。私はこれまでかかりつけ医は近所の医者のほうが便利で、人々はそちらを選ぶであろうと考えていたが、どうやらそうではないようだ。遠くても栄に行くことが一つの楽しみ、気分転換になり、こちらを好む人もいることを知った。

亀井内科で訪問看護をしている看護婦さんのお話も伺った。看護婦さんが受け持っている人の状況を報告された。「ろれつがまわらない」「後頭部が痛い」「頻呼吸になる」「楽しいことがないともらしている」などいろいろな問題点が報告された。比較的状況の悪い人が多いと感じた。看護婦さんの、「女性にとっては外出して買い物をするのが一番のストレスの発散になるが、ひとりで家ばっかりに閉じこもっていると気がめいる。看護を受けている女性同士が集まって看護婦さんと一緒に買い物に出かけるグループができるといい」というお話を聞き、在宅看護や在宅医療を受ける人の悩みの一端をうかがい知ることが出来た。

 

A往診の見学

午後や診療終了後は往診の時間となっている。初日は、まず最初に別の病気のために入院している方の睡眠時無呼吸のテストの結果と今後の治療法について説明しに行った。その後、在宅患者さんの家2軒を訪問した。

1人目はCOPDの高齢者男性患者で酸素ボンベと酸素濃縮機をベッドの近くにおいて使用していた。胸部聴診などの診察をした後、SaO2の測定と血液ガス分析を行った。SaO2の測定機器は大学の講義で手にとって見たことがあったが、血液ガス分析の器械があんなに小さく携帯できるものだとは想像していなかった。短時間で動脈血採血をし、血液分析をして結果が画面にあらわれたのには驚いた。

2軒目の方は結核後遺症で鼻カニュラと睡眠時にフェイスマスクを12時間行っている高齢の女性であった。いろいろとお話を伺うことが出来た。この方は、病院にずっと入院することが嫌でたまらず、気管内挿管するところを本人が依頼して、在宅酸素療法を亀井先生がすることになったそうである。酸素吸入をしていると気が楽になり眠くなる。寝つきもよく熟睡し、朝は体が軽い。これをはじめて本当に良かった、とこの方は繰り返しおっしゃっていた。

この方に限らず酸素吸入器をつけている方はつけていると非常に楽だとおっしゃっていた。外見は大きな機器から太いパイプが出て顔にはめたマスクにつながり、とても違和感があり眠りにくそうであるのだが、実際にはかえって楽に眠れるようで驚いた。また、この方は、病院にいたときはなかなか器具の手入れや交換をしてくれなかったが、在宅で行う分には自分で手入れが出来るので安心だそうである。在宅酸素療法で予後は改善するということは教科書に載っていることだが、実際に入院とはこういう社会的、精神的な違いがあるということを知ることが出来た。

23日にはCOPDAspergillosisの人、24日にはCOPDの人の在宅医療を見学した。

 

C     CPAP療法の装置の試用の見学

睡眠時無呼吸の治療法の一つにCPAP(continuous positive airway pressure)療法がある。24日午後に、ある睡眠時無呼吸の患者さんが業者さんから装置の使用方法の説明を受けるということで、それに同席させていただいた。まず亀井先生の診察を受けた後、業者さんが装置の説明を簡単にした。そして、患者さんは20分間試しに装着することになった。

その間に業者さんにいろいろ質問したり、装置の問題点を伺ったりすることができた。問題点としては、人工呼吸器と違ってCPAPの機器は補助呼吸器という位置付けで、緊急時の機器の機能(アラーム、非常用電源等)がまだまだ未熟であるそうだ。しかし、昔と比べて機器の大きさは小さくなり、騒音も小さくなったので、そのような問題点も今後改善されるであろう。業者さんは知識が豊富でいろいろ装置の仕組みから、値段の高さ、今後の展望など率直なお話をしていただき、いろいろ自分で気が付かなかったこともわかりよかった。

 

(3)まとめ

 亀井先生は勤務医からグループ診療の専門医の一員として開業されたということで、松村先生のところとはまた別の開業医の一面を見ることが出来た。診療、往診を見学させていただいたのみならず、いろいろ教えていただいた。呼吸器疾患の治療法からEBM、開業医の勉強の仕方まで。また臨床の雑誌やEBMの本を紹介していただいた。

 まず、今までもっていた私の懸念が払拭された。「開業医では最新の医学知識にどんどん遅れていってしまう」ということは杞憂であると感じた。インターネットやCD-ROMにより最新の知識は得られるし、医学雑誌は定期的に取り寄せればよい。至急のときは業者に依頼すれば一日でFAXで手に入る。本人のやる気次第で、病院の医師も診療所の医師も知識では遜色ない時代になったと感じた。

 次にグループ診療を見ることが出来た。SL医療グループは日本で成功している貴重なグループだそうである。グループ診療の成功のポイントやら、設立の背景やらいろいろためになった。私は開業医と勤務医の垣根を下げるためにもっとグループ診療が増え、病院と診療所両方に従事する医者が出てくると医療の世界が活性化されておもしろくなると考えているので、実際に見学することが出来てよかったと思う。

 往診では患者さんにいろいろ話を伺える時間があって良かった。患者さんがどのような環境で、どういうことをしながら日々の生活をしているかわかった。これは別の見方では、患者さんのプライバシーにかなり侵入しているということなので、医師と患者の間に信頼関係がなければ出来ないことだということを感じた。また、生活しながら酸素濃縮機などを使うという治療を並行しているので、患者さんなりに機器の使い方など工夫が見られて楽しかった。外来では時間の都合によりあまり患者さんと話すことは出来なかったが、往診では時間もありいろいろ質問をすることが出来た。往診で、私がこれまで想像していたのは、白衣を着てかばんの中に薬やら注射針をたくさん入れて、出かけるというもので、実際にはそんなものものしいものではないことがわかり驚いた。

 往診は医師側にとっては時間がかかる、移動が大変という面もあるが、患者さんの生活を第一に考え、時間をあまり気にせずに患者さんと話すことが出来るという素晴らしい面を体験することが出来た。往診先が遠かったという点は先生には申し訳ないが、私には先生にいろいろな話を伺えるとてもいい時間になった。EBMについては具体的に喘息などの疾患の治療法について教えていただいたり、卒後研修や在宅医療の現状についてはなしてくださったりした。


V最後に

 松村医院、亀井内科とそれぞれ個性的な診療所を見学することが出来ました。PC-FM ネットがなければとても開業医の先生の知り合いはいないのでこのような経験は出来なかったと思います。松村医院の松村真司先生、奥様、ご家族の皆様、亀井内科の亀井三博先生、奥様、スタッフの皆様と、PC-FM ネットを立ち上げてくださった先生方に御礼申し上げます。

 最後に今回の実習について所感を述べたいと思います。

 まず、病棟実習がまだ始まっていない私にとっては、診療の見学で十分勉強になったと思います。まだ診断学が身についていないので予診とりなどは診療所の患者さんや先生にご迷惑をおかけすると思うので、6年生になり、一応大学病院で経験してから、診療所で大学での診療の仕方と比較しながら診察の勉強をさせていただくほうが効果的だと思います。第一段階としては私の今回の実習のように、「先生の診療の見学をし、他医やコメディカルとの連携を知る」、第二段階としては「実際に診療に参加し、大学病院での仕方との違いを知る」のが良いと思います。第二段階の実習は診療所の都合により出来るところと出来ないところがあると思うので、そこのところをPC-FM ネットの参加診療所一覧のところに明記していただくと助かると思います。

 今回の実習は診療以外にもさまざまなお話を先生方から伺えてとてもためになりました。進路相談、EBM、在宅医療の現在、勉強方法など刺激的でした。いろいろな開業医の先生がいるということがわかりました。大学内にいては井の中の蛙になってしまうことがわかりました。一対一で先生と3日間つきっきりいられた、ということは大変幸運なことであったと思います。